宇宙線被ばく線量評価の信頼性向上を目的とした富士山頂での放射線モニタリング

Radiation Monitoring at the Summit of Mt. Fuji to Improve the Reliability of Cosmic Radiation Exposure Assessment

 

矢島 千秋
Kazuaki Yajima
独立行政法人放射線医学総合研究所
National Institute of Radiological Sciences

共同研究者

松澤 孝男 放射線医学総合研究所 matsuzawa_2000@yahoo.co.jp
保田 浩志 放射線医学総合研究所 h_yasuda@nirs.go.jp
Takao MATSUZAWA, National Institute of Radiological Sciences
Hiroshi YASUDA, National Institute of Radiological Sciences

研究の概要

我々は日本最高地に位置する富士山測候所において宇宙線被ばく線量評価研究のための観測実験を行っている。宇宙線線量の経時変化観測や計算値との比較等に用いるデータ取得のため、2010年度から長距離無線LANを利用した放射線モニタリングシステムの整備を進めてきたが、システムのバッテリー式自立型電源の容量が無人観測期間(8月末から翌年7月)に対し不足していることが懸案であった。本年度は、電源部の改良と容量補強を行い、通年観測の実現を目指す。

(英文表記)
In order to improve the reliability of cosmic radiation exposure assessment for aircraft crew, a system for continuous monitoring of atmospheric radiation will be constructed in the Mt. Fuji Weather Station located at the highest place in Japan; the data obtained from this system will be utilized for verification of numerical model simulation and prompt estimation of radiation dose rate at aviation altitude. In 2013, we add improvement to power-supply unit of the system based on the result of the practical performance test of the battery carried out last year, and aim at the continuous radiation monitoring in whole year.
 
研究目的
放射線医学総合研究所では、2007年より国内航空会社の自主的な乗務員の被ばく管理を支援しており、その主な内容は航路線量の計算評価である。現在は地球の高緯度地域に置かれた中性子モニタのデータを基に太陽磁場強度を評価し、月毎の平均線量を計算しているが、日本発着のフライトについての線量計算精度の実測検証は十分ではない。検証に有用な大型の放射線測定装置を旅客機に搭載することは非常に困難なので、上空にできるだけ近い高地に宇宙線のモニタリング拠点を構築することが望ましい。本研究では、航空機搭乗者の宇宙線被ばく線量評価の信頼性向上のため、日本で最も航空機高度に近い場所である富士山頂に位置する旧富士山測候所を活用し、上空の放射線を常時モニタリングできる体制の整備を進める。

 

内外の関連研究の中での位置づけ
国外では欧州のアルプスや西アジアのチベット等、国内では乗鞍に宇宙線観測を実施している高山施設があるが、これらは宇宙から飛来する高エネルギー粒子等の検出を主目的とした、宇宙・太陽物理学や天文学の観点からの取り組みであり、本研究で行うような放射線防護の観点からの被ばく線量評価を目的としたものではなく、測定に用いる機器や測定対象が異なっている。又、富士山測候所では、乗鞍の施設よりも千メートル標高が高く、大気厚がその分薄いため、上空の線量の推定精度が向上する。よって、本研究で得られるデータは、航空機乗務員の被ばくを評価するという目的に照らして国際的にも役立つ有用なものとなる。

 

期待される成果
富士山測候所における通年での放射線モニタリング体制が構築されれば、日本上空での宇宙線環境のより精確な把握が可能となり、計算モデルの実測による精度評価や実測値からの迅速な上空の線量推定手法開発の進展が期待され、宇宙線被ばく線量評価の信頼性をさらに向上させることができる。

 

社会への還元
2006年に文部科学省の放射線審議会の策定した「航空機乗務員の宇宙線被ばくに関するガイドライン」に沿って、翌2007年より国内航空会社による自主的な乗務員の被ばく管理が始まった。我々は航路線量計算という専門的作業をもってこの取り組みを支援している。また、一般に利用可能な簡易版の航路線量計算プログラムを所属機関ホームページにおいて公開している。このように本研究は、航空機の安全な運航と密接に結びついた社会的重要性の高い取り組みであり、その成果は、これらの活動を通じてただちに社会へ還元され、航空機を運航・利用する人々の安全・安心に大きく貢献する。

 

富士山測候所を使うことのメリット
宇宙線の強度は高度が高くなり、大気が薄くなるほど強まる。そのため、上空の放射線環境に関する実測研究を行う場合、測定精度の観点からも日本最高地(大気の薄い)にある旧富士山測候所は理想的な拠点である。また、精密機器である測定装置を設置して用いることが可能な屋内環境を提供し、夏期限定ではあるが100V商用電源を利用可能であるなど、とりわけその立地を考慮すれば研究施設としての機能性も非常に高い。