富士山山頂における大気電気現象および超高層大気の観測

Observation of atmospheric electricity and upper atmosphere

 

鴨川仁

Masashi Kamogawa
東京学芸大学 教育学部 物理科学分野
Department of Physics, Tokyo Gakugei University

共同研究者
鳥居建男 日本原子力研究開発機構
鈴木智幸 東京学芸大学
高橋幸弘 北海道大学大学院理学研究科


研究の概要

富士山山頂という高所を活用した大気電気・超高層大気の観測研究を行う。特に本申請では次の3テーマ、1)雷活動において発生する高エネルギー放射線、2)スプライトをはじめとする高高度大気中における放電現象、3)大気光モニターによる大気重力波が超高層大気に与える影響、について研究を行う。いずれのテーマも地上観測では不可能ないしは困難である観測研究である。

(英文表記)

We investigate atmospheric electricity and upper atmosphere from the top of Mt. Fuji. In the observation, we focus on the following topics: 1) Energetic radiation associated with thunderstorm. 2) Sprite and elves. 3) Upper atmospheric dynamics and gravity waves by monitoring airglow.

研究目的
高所観測の利点を活かした大気電気および超高層大気の観測研究を行う。本申請では次の3つテーマについて研究を行う。1)雷活動において発生する高エネルギー放射線の研究では、申請者らが富士山山頂において雷雲到来時に高エネルギー放射線が発生していることを観測していることから、発生機構の解明を試みる。2)スプライトをはじめとする高高度大気中における放電現象の研究では、活発な雷放電に伴って、夏季の関東平野上空で発生するスプライト等の高高度放電現象(雷雲から上空に向かう放電現象)を観測し、微細構造の仕組みについて解明する。さらに、低高度の地上観測では撮影が難しい下部成層圏で発生するブルージェットを詳細かつ多数観測する。3)山岳回折等によって励起された大気重力波に影響を受ける下部電離圏変動観測を、大気光モニターで行う。

 

内外の関連研究の中での位置づけ
以下テーマ別に記載する。1)申請者らは本テーマにおいて先駆的な業績を出し続けており、発生機構の解明に迫るところまで至っている。2)1990年代に科学的に発見されたスプライト・エルブスは高高度大気中の放電として数多くの画像が残されており発生機構は概ね理解されているといえる。しかしその発生のきっかけ、複雑な形状などの根幹については未解明である。特に内外を通して地上からまとまった数のブルージェットの観測に成功した例はほとんどない。3)大気光観測は、超高層大気のダイナミクスを理解するにあたっては有用な測定方法であるが、天頂方向がある程度長い時間晴天でなければ行えず、条件が整った限られた領域でしか観測結果が得られていない。

 

期待される成果
いずれのテーマにおいても良質なデータを得ることができる。また、それぞれのテーマについて物理的機構の解明まで到達できると期待できる。特に世界的にも未解明といえるブルージェットの発生位置を特定し、他の気象データと組み合わせることで、原因となる雷雲の特性についての新たな知見を得ることができる。

 

社会への還元
東日本大震災以降、一般社会の放射線に対する興味は高まり、自然放射線に対しても見知が求められるようになった。雷雲から発生する放射線も自然放射線であり、富士山観測における本研究の発展は、宇宙線・大地からの放射線以外の第3の自然放射線が存在すると言う社会認知へ貢献できる。一方、高高度での放電現象はまだ社会にはそれほど認知されていないが、申請者らが製作にかかわったNHK宇宙科学番組コズミックフロントおよび2012年4月に放映されたNHKスペシャル「宇宙の渚」などを通して一般社会の興味を大きく引くようになってきた。遠方の雷雲上部が容易に見通せる富士山山頂からスプライト等の観察は登山客の一つの目的になることが期待できよう。さらに、高高度を飛行する航空機の安全にブルージェットが及ぼす影響などの手がかりもつかめるようになる。

 

富士山測候所を使うことのメリット
測候所での観測には複数のメリットがある。1)測候所は雷雲の接近がたびたびあるため雷雲に関連する放射線の測定に適している。雷雲からの高エネルギー放射線を捉えるためには大気による放射線の減衰を避けるために雷雲の直近でなければならなく、測候所ではたびたび雷雲の接近がある。2)本グループの過去の研究成果から夏季夜間時は測候所から水平方向に対して近隣の雲が少ない。つまり、遠方の落雷活動を捉えることができる環境である。さらに富士山は、関東地方で発生する雷雲の進行方向から外れており、かつ地上に比べて透明度が高く、観測地点となる山頂は雲の上に出る可能性が高いため、観測効率をあげつつ、より詳細な映像の撮影を行うことができる。3)本グループの過去の研究成果から、天頂方向には夜間時雲があまりないかつ山頂ならば都市部夜間時の光の影響を避けることができるため、大気光観測に適している。