富士山の永久凍土研究:研究の第二段階

Permafrost study on Mt. Fuji: the second phase of a research project

 

池田 敦
Atsushi Ikeda
筑波大学生命環境系
Faculty of Life and Environmental Sciences, University of Tsukuba

共同研究者

岩花 剛  アラスカ大学フェアバンクス校 国際北極圏研究センター
末吉哲雄  海洋研究開発機構 地球環境変動領域

研究の概要

富士山山頂の永久凍土の現状を解明し,その地温変化をモニタリングすることで,将来,気候変化と火山活動の評価につなげることを目的とした研究の一環とし,2010年に永久凍土をモニタリングしうる深さ約10mの観測孔を設置した.2013年度はその観測データや山頂一帯の浅層地温観測データを回収・分析する.さらに凍土分布を明らかにするための物理探査と,山頂部の地形変化のモニタリングのための測量を継続する.

(英文表記)
This research is a part of our interdisciplinary research project to understand permafrost on Mt. Fuji. In 2010, a 10 m-deep borehole was dug to monitor permafrost on the summit of Mt. Fuji. We will analyze the monitored ground temperatures at a number of sites including the 10 m-deep borehole site. In addition, geophysical surveys will be applied to study permafrost distribution. Topography of the summit area will be also surveyed to evaluate processes of ground deformation.
 
研究目的
近年の温暖化に伴う永久凍土の昇温・融解と,それによって水循環,地形,生態系が変化しているかどうかが国際的に注目されている.日本でも富士山と大雪山に永久凍土が存在することが1970年代から知られていたが,富士山の永久凍土に関しては,地表付近(永久凍土層より浅い位置)の地温から主にその分布が推定されたにすぎず,その実態は不明であった.今後,温暖化がさらに進行すると予想される中で,国内では珍しい永久凍土がどのように変化し,それが周辺環境にどのように影響を与えるのかを評価するために,申請者らは2008年度から山頂部の凍土環境を長期的にモニタリングする研究に着手し,2010年度に富士山山頂部で永久凍土をモニタリングしうる深さ10 mの観測孔設置に成功した.本年度は,引き続き,その観測孔のメンテナンスおよびデータ解析を行う.また凍土分布のより実証的な評価を目指した物理探査を行う.さらに山頂付近の地形測量の再測を行い,短期的な地形変化が生じているかどうか検討する.

 

内外の関連研究の中での位置づけ
近年の温暖化の影響評価を目的として世界各地での永久凍土モニタリングの重要性が指摘されており,山岳地帯でもとくに欧州の大型プロジェクトなどにより永久凍土の多角的な観測がなされている.また開発を目的とした中国政府によるチベット高原の永久凍土研究も盛んである.1970年代初頭に公表された富士山の永久凍土に関する研究(藤井・樋口,1972)は,中緯度高山の永久凍土について言及した最初期の論文であり,当時その学術的な価値は高かった.しかしそれ以降は富士山において研究が進展せず,現在の永久凍土研究の国際的な水準からすると,その理解は大きく遅れていた.我々の研究により,従来,永久凍土分布が過大に推定されていたことも明らかになり,今後,新たな知見を広めることも必要になった.

 

期待される成果
本研究が2008年度の開始当初から将来的に目指していることは,温暖化と火山活動の影響評価を目的とした大深度観測孔(深さ50 m以上)を山頂部に掘削し,永久凍土の温度プロファイルの長期観測を日本でも実現し,その成果を国内外に発信することである.その前段階として,申請者らは2008年夏に2地点において深さ3 mの観測孔を,2010年夏に1地点において深さ10 mの観測孔を設置した.先の2地点では3 m深においても地温が0℃を上回る時期があることが判明したが,10 m観測孔の底では年間を通じて,-3.3~-2.3℃の範囲内にあり,確実に永久凍土が存在することが見込まれた(※永久凍土の定義は2年間を通じて0℃以下で推移する地盤であり,富士山ではその存在が通年の直接観察で実証されたことはこれまでなかった).その地点の情報を参照基準とできるようになったことで,最近約100年間の永久凍土の状況変化の一部を,遡知できる可能性も高くなった.また,物理探査の適用方法を改良することで,掘削が及ばない深度の凍土分布に関しての実証的なデータが得られる可能性がある.一方,測量によって得たデータは将来,地形変化を議論するためのベンチマークとなる.

 

社会への還元
2010年に掘削した地温観測孔では,永久凍土のモニタリングが可能であり,国際的な永久凍土地温観測網(GTN-P)にメタデータを提出している.今後,研究の進展に応じてデータもウェブ上で公開し,気候学や生態学等,環境変化のモニタリングを行っている様々な分野で利用できるようにする.富士山の火山活動に変動が生じないかぎり,将来,長期間の地温データが得られたのちには,気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のような国際組織にも評価されるデータとして日本から提示できる可能性はある.

 

富士山測候所を使うことのメリット
山開き期間中の山頂で,効率よく作業を行い,調査観測に伴う観光業者・観光客への負担を避けるためには,測候所に宿泊して作業を行うことが最善であると考えている.