富士山頂で貯蔵した農畜産物の品質変化

Changes in the quality of agricultural and livestock products stored at the top of Mt. Fuji.

 

稲津成孝
Inazu Shigetaka
ふじのくに地域政策研究所
Fujinokuni Institute of Regional Policy

共同研究者
静岡県東部農林事務所生産振興課 澤野郁夫
静岡県東部農林事務所生産振興課茶業農産畜産班 佐田康稔
静岡県農林技術研究所品質・商品開発科 山本寛人 
静岡県農林技術研究所茶業研究センター商品開発科 後藤正
静岡県畜産技術研究所肉牛科 齋藤美英
静岡県工業技術研究所バイオ科 岩原健二

研究の概要

観光資源である富士山を活用した新たなブランド創出を目指して、富士山頂の低温、低圧、低酸素といった極地条件下での熟成に着目し、一定期間、富士山頂に茶、米、日本酒、肉を貯蔵して、品質や食味への影響を評価する。自然環境を利用した同様の試験事例はなく、農畜産物の熟成や加工技術開発に新たな発見が期待される。また、富士山の世界文化遺産登録により、国内外からの観光客の大幅増加が予想されるため、この時期に新たな富士山ブランドの創出を目指した研究に取り組む意義は大きい。

(英文表記)

In order to contribute to the efficient use of facilities at Mt. Fuji’s peak, the improvement of added value of agricultural products in Shizuoka prefecture, and the product branding, we focus on the maturing of agricultural products under cold, low-pressure and low-oxygen environment and will elucidate the change in the quality of tea, rice, beef, and Japanese sake before and after storage. There is little such maturing experiment using natural environment, so, it is hoped that this study will have multiple effects on the development of maturing / processing technology of agricultural products.

研究目的
北陸、東北、北海道では雪の冷熱を利用した雪室貯蔵や低温など自然環境を活用した米、果物、野菜の貯蔵施設が実用化している。温暖な静岡県では、かつて茶を標高1000m超の静岡市大日峠に上げ、熟成茶を駿府城の徳川家康公に献上したと言われ、保管した茶壺屋敷はまさに自然の冷蔵庫であったが、現在、商業ベースで自然環境を利用した雪室貯蔵施設やその類似施設はない。
しかし、2011年静岡県御殿場市と小山町の茶業者でつくる「御殿場小山中核農業者協議会茶生産部会」(勝又保徳会長)が茶葉を富士山の風穴で熟成させたところ、茶の味や香りがまろやかになり、2012年にも富士山頂の山小屋内で熟成したところ、同様に上質な熟成茶に仕上がることが確認された。そこで、富士山頂の自然環境を利用した農畜産物の熟成に着目し、富士山頂の施設の有効利用を図るとともに静岡県農畜産物の付加価値向上技術を開発しブランド化に寄与するため、富士山頂貯蔵試験を実施する。
本研究では、茶に加え、米、牛肉、日本酒を研究対象とするが、いずれも低温、低圧、低酸素といった自然環境下における熟成試験の事例が無く研究の意義は大きい。


内外の関連研究の中での位置づけ
茶では、抹茶原料や山間地で生産された茶は冷蔵貯蔵で熟成してまろやかな香味になることが明らかにされているが、紅茶での知見はない。また、低温、低圧条件下での知見は緑茶、紅茶ともにほとんどないため、富士山頂の条件下で熟成したときの成分変化を解析し、茶の新たな貯蔵技術、熟成技術の開発に役立てる。
米では、寒冷地で行われている雪室貯蔵や氷温熟成によって、旨みや甘味が増し食味が良くなるといった事例がみられる。温暖な本県では冷蔵庫貯蔵が普及しているものの、自然環境下での熟成は実用化していない。そこで、静岡県産米を用いて富士山頂で熟成したときの食味および成分変化を解析する。
旨みアミノ酸が飛躍的に増加するといわれている牛肉のドライエイジング(乾燥熟成)法では、酸化による肉色の変化や過酸化脂質の増加が問題となっている。低酸素環境下で長期熟成を行うことで、本県の特長を生かした新たな銘柄牛肉作出の可能性を見出すために、熟成後の牛肉品質に与える影響について検討する。
日本酒では、吟醸酒、大吟醸酒といった高付加価値酒は低温でじっくり熟成させることによって、雑味のない淡麗な酒質となり、さらに酒造好適米を使用し仕込んだ酒は、熟成によってさらに酒質が向上するといわれている。これまでに経験のない富士山山頂の環境下での酒質変化を検討を行う。

 

期待される成果

  • 長期熟成茶、米、牛肉、日本酒の品質向上
  • 新たなブランドの作出
  • 低温、低気圧、低酸素下での農畜産物の貯蔵性と成分変化や熟成との関係が明らかとなり、新たな農畜産物の貯蔵技術や熟成技術の開発につながる。

 

社会への還元

消費者ニーズに適合した新たな農畜産物熟成技術を開発し、生産者の所得向上に寄与できる。また、消費者の食嗜好に新たに嗜好範囲を広げることができる。

 

富士山測候所を使うことのメリット

  • 特別な施設を使用せずに低温・低圧・低酸素環境における熟成試験を実施できる場所は富士山頂以外にない。  
  • 富士山は国内外で知名度が高く、農畜産物の熟成環境として優れていることが明らかとなった場合、この地で熟成された農畜産物は非常に高いブランド価値を得ることができる。