富士山頂において歩行バランスに与える影響

Effect of gait balance factors in Mt. Fuji summit (3776m)

 

井出 里香
Rika Ide
東京都立大塚病院
Tokyo Metropolitan Ohtsuka Hospital


共同研究者
五島 史行(日野市立病院)
吉田 泰行(栗山中央病院)
山川 博毅(東京都立大塚病院)

研究の概要

急性高山病には、めまい、ふらつきなどの症状があり、登山中に身体バランスを崩して滑落事故につながるケースも多い。内耳(前庭)は低酸素に対して感受性が高いため、めまい、ふらつきの要因の1つとして考えられている。平成23年度は、富士山頂での加速度センサーによる歩行バランスの評価を行い、歩行条件(降り)や急性高山病の重症度との関連が認められた。
今年度は、荷物の負荷や歩幅など実際の登山状況での検証を行う。本機器は小型・軽量であるため、登山中の体調管理や滑落リスクの指標として評価ができれば、安全な登山に寄与できる可能性が大きい。

 

(英文表記)

We investigated the ability of accelerometer measurements to evaluate gait balance in Mt. Fuji (3776m). This study suggest that the factors of gait balance were gait condition (descending) , AMS score. We inspect about the factors of trekking condition (weight load, stride etc) at Mt. Fuji summit. Furthermore, we are going to try control test in trekking course in Mt. Fuji summit. If this measurements are possible to evaluate gait balance in mountaineering, it will be indicators of body condition, slide down accidents risk.

研究目的
平成23年度は、富士山頂において加速度センサー(8チャンネル小型無線モーションレコーダー)にて身体動揺を記録し、平地と比較検討した。前回の研究では、歩行バランスに影響する要因として歩行条件(降り)や急性高山病の重症度との関連が認められた。登山中の滑落事故は歩行中におこることがほとんどであるため、本研究では、荷物の負荷、歩幅など実際の登山状況の影響についてさらに検証する。また実際の登山コースにおいて試験運用を試みる。 

 

内外の関連研究の中での位置づけ
高度5500mにおいてAMSのめまい(dizziness)症状はなかったが、身体動揺の明らかな増大が認められ、これはAMSの症状が発症する前に姿勢保持障害がおこっている可能性がある。
(cymerman A et al.High altitude medicine & biology;12(4)509-514.2001)
前庭系に対する皮質感受性は中枢神経系の高位レベルであるため、前庭神経核は低酸素に対して感受性が高いと考えられている。(Gellborn E et al. Am J physiol ;164(3)748-751.1951)
低圧低酸素環境下において加速度センサーを用いて歩行バランスの評価を行なった報告はまだありません。
本研究はこの領域では初の試みとなり、研究アプローチとしても意義があると思われます。 

 

期待される成果
前回の研究では、加速度センサーによる歩行バランスの評価について予備実験を行ないました。
今回の研究では、前回の結果を踏まえて実際の登山において歩行バランスに影響を与える要因について加速度センサーを用いて検証を行ないます。本手法による評価が可能であれば、本機器は小型・軽量であるため、登山中の体調管理や滑落リスクの指標として臨床応用できると思われます。 

 

社会への還元
山岳遭難において滑落事故が占める割合は高いため、本研究により登山中の体調管理や滑落リスクの評価が可能となれば、登山中の注意喚起や行程中の対応にも反映することができる。これにより滑落事故などの遭難事故の防止に貢献できるものと思われる。今後、身体動揺とbrain hypoxiaとの関連について研究することにより、AMSの病態解明の一助にもなると期待できる。 

 

富士山測候所を使うことのメリット
AMSは標高2500m以上から発症するといわれており、富士山頂の標高(3776m)は高所順応において第一関門になる高度である。早期の身体動揺を評価するには適した高度であり、実際の登山における状況を把握しやすい。